最初のうちはそういう〝輪〟の中にも入っておいた方がいいのだろうと思い、立ち話につきあったりもしていたのだが、すぐにやめた。こういう集まりは身も蓋もなく発言力がものを言うらしく、そこで話される内容はそれ自体が意味を持たない。〝話している〟その事のみが大切らしい。少なくともこの人たちはそうとしか思えなかった。何というか、伸びない企業の定例会議みたいだなという印象で、それに皆んな話し相手に困っている風でもないので、近頃は合ずちを打つくらいにしてすぐ退散する事にしている。
「あ、こーくん、おっはよー」
「お、おい、気をつけないとこけるぞ」
車から降りて周りをきょろきょろしていた和未が大きく声を上げながら走っていく。俺の声は聞こえたのかどうか、そのまま園内へ走り去ってしまう。そのこーくんは彼女が今日の出来事を話してくれる時に一番出てくる名前なんだが、遠目に見る限り当のこーくんはいつもとまどったような反応で、二人の気持ちには大きな差があるとしか思えない。しかしその内、父親より大切な他人が現れて俺は彼女の中の〝つけたし〝みたいな存在になるだろうな――まあその意味では今でも十分怪しい。
昨日のショックをまだ引きずっているのに気づく。やっぱりあいつとどう接していいのか解らないんだな、俺は。
「毎日、ご苦労様ですねえ。ウチの主人は子供の事全然見てくれないから、三倉さんの所がうらやましいわあ」
いつの間にか隣に鍋島さんがいて、語尾を延ばす癖のある、なんとなく粘っこい口調で語りかけてきた。
「あ、いや。必要に迫られてのことですから。私がやらないと誰も居ないですからね、はは」
「でも作家、っていうのも大変でしょお?ほら、締め切り間際には何日も徹夜するって聞きますし」
「それくらい仕事があればいいんですけど、残念ながら売れてない物書きはただ暇なだけですよ」
当たり障りのないことを言ってごまかす。いつもならうやむやになって、ちょっと間の悪い空気になったところで形どおりの挨拶をして家に戻るのだが今日は違った。
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