どさり、と音を立ててそれは倒れた。長い髪がコンクリートの地面に広がる。足音が近づいて、それの横で立ち止まり片膝を附くと、まずは上着に手をかけた。
落ち着いた動作で衣服を脱がしていく。もちろんそれは抵抗しない。文字通り魂を抜かれたような顔をして、視線は地面の一点に向けられていた。
作業の途中で、まだ暖かい肌に手が触れた。一瞬顔をしかめたが、また黙々と作業に移る。しばらくして全裸になったそれを少し離れて見つめる。
薄暗い空間の中で、切り取られたコンクリートの隙間から漏れる光にそれは照らされている。だらしなく仰向けに横たわるその格好はそれを決して美しく見せているとは言えなかった。動かないそれはしかし、その空間の中で圧倒的な存在感を放っている。
それをじっと見つめる視線に変化が現れる。すうと細められた目の奥に、嫌悪感や敵意が剥き出しになる。それはとても〝正直な表情〟だった。が、それは一瞬で、すぐに元の穏やかと言ってもいい表情に戻り、それに近づくと、左手を手に取る。指輪を填めているのに気付くと、ゆっくりと抜き取った。
その瞬間、辺りの湿度が急激に上昇する。同時にそれの全身から血の気がなくなって、白っぽくなったように見える。手に取ったままだった左手を無造作にひねると、ぱき、という乾いた音を立てて、手首の部分であっけなく折れた。
――それはからからに乾いていた。ただ不思議なことには、皺になるはずの肌が蝋細工のようにつやつやとしていて、外見的な変化はあまり無い。折れた左手首を除いては。
その左手首の人差し指をつまむと、また、ぱき、という音を立てて折る。それを口の中に放り込む。残った手首を体の方に投げると、体にぶつかったとたん、両方とも細かな塵のようなものになってその場に崩れ去り、その塵の山のようなものも、さらさらと風に乗って舞い上がり消えていく。
口の中のものを咀嚼しながら、その一部始終を見つめる顔にはどこか子供じみた高揚感が浮かんでいた。
ついさっきまで存在していた彼女だったものは、散り散りになって世界の中に溶け込んでいく。その場所に残ったのはむせ返りそうな湿気と、薄めた血の匂いに似たものだけだった。それもすぐに拡散して、感じ取れなくなってしまう。
「……喉渇いたな」
少しつまらなそうな顔をして、彼は人差し指の感想を口にした。
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